酵母とは?日本酒に欠かせない小さな職人
酵母は肉眼では見えない微生物
1個の酵母は1/100mm以下のサイズ
酵母は非常に小さな微生物で、その大きさはわずか1/100mm以下。顕微鏡でしか見ることができません。この目に見えない存在が、日本酒の発酵において重要な役割を果たしています。見えないながらも、酒造りには欠かせない“職人”として働いています。
自然界の果物や空気中にも存在する
酵母は特別な施設でしか存在しないわけではなく、実は果物の皮や花、空気中など自然界の至るところに生息しています。こうした野生酵母は昔ながらの酒造りにも利用されており、土地ごとの個性を生み出す要因のひとつとされています。
日本酒以外にもパン・ビールなどで活躍
酵母は日本酒だけでなく、パンやビール、ワインなどの発酵食品にも広く使われています。パンでは生地を膨らませ、ビールやワインではアルコール発酵を担うなど、私たちの食生活に欠かせない存在です。まさに発酵文化の立役者といえるでしょう。
人間にとって有益な「発酵菌」のひとつ
酵母は人間にとって有益な働きをする「発酵菌」のひとつであり、食品を美味しく・保存しやすくする力を持っています。悪い菌とは異なり、健康や文化の面でも多くの恩恵をもたらしてくれる存在です。特に日本の発酵文化では重要な役割を果たしています。
アルコールを生み出す力の源
糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生成
酵母は、米からできたブドウ糖を分解してアルコールと二酸化炭素を生成する働きを持っています。このプロセスが「アルコール発酵」と呼ばれるもので、日本酒の醸造に欠かせない工程です。酵母が活発に働くことで、旨味と風味を持つ日本酒が生まれます。
お酒作りに大活躍する酵母たち
日本酒をはじめとするアルコール飲料は、ほとんどが酵母を使用して作られます。糖分をアルコールに変える酵母の働きによって、発酵が進むからです。酵母は酒造りにおいて最も基本的で重要な存在です。
発酵中の管理が酒質に直結する
発酵中の酵母の働きは、酒質に直結する重要な要素です。酵母の増殖具合や糖分の消費速度、アルコール濃度のバランスなどを的確に管理することで、品質の高い日本酒が完成します。蔵人の技術と酵母の特性が組み合わさって、味わいが決まるのです。
香りや味わいを決定づける存在
吟醸香の「リンゴ様香」「バナナ様香」などを生成
酵母は、リンゴのようなフルーティな「カプロン酸エチル」やバナナのような「酢酸イソアミル」といった吟醸香を生成することで知られています。これらの香り成分は酵母の種類によって異なり、日本酒の風味に大きな個性をもたらします。
辛口・甘口の傾向にも影響
酵母の活動具合や糖の分解率によって、日本酒の甘口・辛口のバランスも変わってきます。糖分が多く残ると甘口に、しっかり発酵が進むと辛口になります。このように酵母の性質や働きが味の方向性を決めるカギとなっているのです。
酵母ごとに“個性”がある
酵母には多くの種類があり、それぞれに香りの出し方や発酵速度、温度適応性などに違いがあります。たとえばきょうかい酵母では、「協会7号(真澄酵母)」や「協会18号」など、ナンバリングされた酵母には異なる特徴があり、使い分けによって酒の表情が大きく変わります。
日本酒造りで使われる酵母の種類と特徴
きょうかい酵母とは?
日本醸造協会が頒布する標準酵母
協会酵母とは、日本醸造協会が選抜・培養し、全国の酒蔵に頒布している公的な酵母です。安定性が高く、日本酒造りにおける品質の均一化や再現性の向上に大きく貢献しています。多くの銘柄がこの酵母を使用しており、業界のスタンダードといえる存在です。
安定した発酵と風味が魅力
協会酵母の魅力は、発酵力の安定性と香味のバランスにあります。酒質の仕上がりが予測しやすく、大量生産でも品質を保ちやすいのが特徴です。製造環境の差によるブレが少ないため、初心者が飲んでも美味しく感じやすい日本酒をつくることができます。
きょうかい酵母の多様なラインナップ
きょうかい酵母には、ナンバリングされた多くの種類があります。それぞれ発酵力や香りの特徴が異なり、目的や酒質に応じて使い分けがされています。たとえば、「協会7号(真澄酵母)」はクセが少なく使いやすい一方、「協会1801号」は華やかな吟醸香が特徴です。
「吟醸向け」など用途ごとに分類される
協会酵母は、使用目的に応じて「吟醸向け」「普通酒向け」など用途別に分類されています。吟醸向け酵母はフルーティな香りを引き出す一方、普通酒向けは発酵力重視で安定した製造に適しています。酒造りの目的に合わせた選択が可能です。
蔵付き酵母の奥深さ
自然発生的に蔵に定着した酵母
蔵付き酵母とは、酒蔵内の壁や梁、道具などに自然に棲みついた酵母のことを指します。人の手で管理されたものではなく、長い年月のなかで蔵に定着した酵母が偶然に発酵を担う、まさに“自然との共同作業”ともいえる存在です。
蔵元ごとの独自性を生む
蔵付き酵母は、同じレシピで仕込んでも蔵ごとに違った味わいを生み出すという特徴があります。蔵人の技術や気候条件との相互作用によって、個性豊かな酒が生まれます。地域や風土の“味”を映す酵母として、近年その価値が再評価されています。
管理が難しく“ロマン”のある酵母
蔵付き酵母は発酵力や香りの再現性が低いため、協会酵母に比べて管理が難しい面があります。その分、造り手の経験や感覚が求められますが、そこに酒造りの奥深さや“ロマン”を感じる蔵元も少なくありません。唯一無二の酒を求める姿勢が反映されます。
自治体酵母・花酵母などの個性派
地方自治体や大学が開発した酵母
近年では、地方自治体や大学・研究機関が独自に開発した酵母も登場しています。地域ブランドの構築を目的とし、地元原料と組み合わせて使用されることで、その土地ならではの個性的な日本酒が生まれています。地方創生の一環としても注目されています。
ナデシコ・ヒマワリなど植物由来の酵母も登場
植物から分離された酵母、いわゆる「花酵母」も話題を集めています。ナデシコ・ヒマワリなどから採取された酵母は、発酵の際に華やかな香りや個性的な味わいを引き出すため、これまでにない新感覚の日本酒づくりに役立てられています。
新しいタイプの日本酒を支える存在
自治体酵母や花酵母は、従来の枠を超えた日本酒の革新を支える存在として注目されています。酒蔵と研究機関の連携によって、今後さらに多様な酵母が開発されることで、日本酒の可能性はますます広がっていくでしょう。
酵母別で楽しむ日本酒の選び方
協会6号:柔らかく上品な甘みが特徴(きょうかい酵母)
協会6号は、落ち着いた香りと上品な甘みが特徴の酵母です。派手すぎない味わいで、米の旨味をしっかり感じられる酒質に仕上がるため、冷やでも燗でも楽しめます。穏やかでやさしい印象の日本酒が好みの方におすすめの酵母です。
協会7号:香り華やか味わいあっさり(きょうかい酵母)
長野県・真澄で分離されたことで知られる協会7号は、香りの立ち方が自然で、味わいもすっきりとしています。クセがなく扱いやすいため、多くの酒蔵で採用されており、初心者にも親しみやすい酵母です。淡麗で爽やかな日本酒に仕上がります。
協会9号:華やかな香りが特徴(きょうかい酵母)
熊本で開発された協会9号は、吟醸酒に適した酵母として知られ、フルーティで華やかな香りを生み出します。白桃を思わせる香りがあり、極めて華やかな吟醸香の特徴が際立ちます。香りを求める方にぴったりの酵母です。
協会1801号:熟成された果実味と穏やかな味わい(きょうかい酵母)
協会1801号は、9号の改良版で、より香り高く、かつ穏やかな酸味を持つ酒質を生み出します。果実のような甘い香りがありながら、味わいは丸みを帯びており、幅広い料理との相性も良好。吟醸酒や大吟醸酒によく用いられる酵母です。
F7-01号:甘みと酸味の絶妙なバランス(自治体酵母)
F7-01号は、福島県で開発された香り高い自治体酵母で、フルーティな甘みと程よい酸味のバランスが特徴です。華やかさがありながらもキレがあり、飲み飽きしにくいのが魅力。個性を求める日本酒ファンにも人気のある新世代の酵母です。