華やぐ春の気持ちを醸したい。
春はまず梅の小枝に目覚めます。冬の季語「寒梅」は、その実、一足早く人々に舞い込む 春の報せだと思うのです。宮寒梅とはどんなお酒かと聞かれることがあります。 そんなとき、私たちは昔から決まって「一杯で旨いお酒」だとお答えしてきました。 たった一杯でたっぷり贅沢したような、明るい気持ちになれるお酒です、と。 この「明るい気持ち」をぜひ大事に思ってこれからもお酒づくりにいそしみたい。 おこがましくも、春を告げる寒梅にあやかり、ぽかぽかと幸せな人々のこころを、 お酒を通じてこしらえたいと願っています。
家族で小さくお酒をつくっています。
宮寒梅をつくる私たち寒梅酒造は、創業した百年前から家族で営むこじんまりとした蔵元でした。仕込み蔵は今も変わらずとても小さく、ですが、少ない人手でこまごまと目を配るにはちょうどいい程度です。2018年、親から子へと晴れて代がわりが果たされます。こんな風に銘は連綿と受け継がれ、その度に味わいがこつこつと深まってきた。大仰に申し上げれば、大切な家宝のようなお酒です。酒蔵の隣にはささやかな家宅があり、庭先で4人の幼子がいつもはしゃぎまわっています。とびきりの宮寒梅を、いつの日か次の代へと胸を張って譲り渡したいものです。
酒蔵の前には、先祖伝来の田んぼがのそりと横たわっています。天から授かった土と水は、私たちのひそかな誉れ。寒梅酒造のお酒は、その2割に自社田育ちの酒米を使用しています。酒づくりは米づくりからと、創業時より伝えられてきました。米を知り、そうして酒を知るとも。稲作に労をかけ、米というこの不思議な穀物について理解を積み上げてゆくのが、この蔵元の昔からのよき習わしのように思います。今年も良米に恵まれますよう。
私たちの田んぼでは「美山錦」「愛国」「ひより」「山田錦」の4種類の酒米を手がけています。ずいぶん多いと思います。「山田錦」は酒米の雄として、広くその名が知られるようになりましたが、もちろん実際の味わいは、品種ごとにそれぞれ個別の美質があります。米の個性を丹念に研究して、さまざまな品種の深いところを、ひとつひとつ日本酒にうつしかえられたらと願っています。
蔵元はいずこも地元に愛着があるものです。その土地の水や空気が日本一とまっすぐ信じて日本酒をつくっています。私たちもまた宮城を深く愛しています。多少の身びいき込みとはいえ、水や空気のみならず宮城の大地が生む酒米の豊かなポテンシャルに惚れ、宮城県産の米にこだわって日々醸造しています。かつて震災で蔵が崩れた私たちは、地元の慮りに存分に助けられました。微力ではありますが、今度はそんな地元を支え、盛り上げてゆく一助になりたいと考えています。
この頃のことかと思います。日本酒の印象が少しずつ変わってきたように感じています。より気軽で、よりモダンで、よりこころ楽しいものへと、少しずつ。率直に申し上げると、私たちは日本酒が向かいつつある新しい世界に賛成です。日本酒の好きな方々に宮寒梅をお届けしたい、それと同じくらいの思いの熱さで、日本酒から御縁の遠い方々にも気軽にお楽しみいただきたいと願っています。酒通が口にして味わい深く、また初めての方がのんでもすぐに美味しく。どちらもやっぱり私たちの目指す宮寒梅です。
宮寒梅は、東北は宮城県、その北西に位置する水のよく澄む大崎市のお酒です。地元を愛し、ありがたくも地元に愛され、近隣の営みの奥へ奥へとしみこむように、脈々と飲み継がれて今にちに至ります。望外なことに近年、県の境を遠く越え、全国各地に愛飲してくださる方が増えています。さらにアメリカやイギリスなどの諸外国からも扱いのご相談をいただくようになりました。私たちのような小さな蔵元には、身にあまる喜びです。そして同時に、身の引き締まる気持ちです。ありがとうございます。私たちは精進せねばなりません。